犬笛日記

それは犬笛のような魂の叫び

同伴者効果を利用した営業戦略の実践と評価

心理学に、同伴者効果と呼ばれる現象がある。

魅力的な人と一緒にいると、この人もきっと素敵な人に違いないと、第三者からの良い評価が得られやすくなる、という事象である。

「類は友を呼ぶ」ということわざがあるように、人間には「人は同じレベルの者同士でつきあうだろう」という意識があるのだそうだ。

イケメンとつるんでいればイケメンに間違われる可能性が上がる、というわけである。そうでなくても、こんなイケメンとつるんでいるなんて、きっとこの人も素晴らしい長所を持っているに違いないわっ!ってな具合に、相手が勝手に都合良く想像を膨らませてくれそうである。


これを利用しない手はない。

わたしがモテないのは、ブスとばっかつるんでいるからだったのだ。ブス友と一緒になってイケメンを見つけては「このお酒あなたの唾液で割って〜〜〜♡」とか言って勝手に喜んでるんだから、そりゃあ来るものも来ないし去る者は加速する。


ということで、数少ないイケメンの知り合いを無理やり連れ出して合コンへ行ってきた。

人数は40人くらい。会場は広め。
自由度が高いこの空間にイケメンと共に参戦するということは、生肉を持って野獣たちの檻の中へと突入するようなものだ。さぁ、群がれ獣たち。


なんて思っていたものの、イケメンと一緒にいるだけで獣が群がってくると思ったら大間違い。ホモってみんな本当に奥手で、ビクビクしながらイケメンから声かけられるのを待っている。

そして、イケメンがわざわざ話しかけに行きたいと思うのもまたイケメンなのだが、そういう奴は大抵誰かに捕まってしまっている。

手持ち無沙汰なイケメンは仕方なく一緒に来たブス(俺)と談笑する。

その様子がまた、他の人から見た時の話しかけにくさに拍車をかける。

これがイケメンネガティヴスパイラルなのだなぁと、イケメン目線になることで初めて得られる気づきがある。

このイケメン、俺と話してるせいで他の人から話しかけられねぇんだなぁって思いながらも、他の参加者達から浴びせられる羨望の眼差しが気持ちよくて、お喋りすることを止められない。私は1秒でも長く、このイケメンの笑顔を見ていたい。そして周囲の人間から、もしかしてあの2人付き合ってるの?やだーお似合ーい!やれやれ、私たちじゃ敵わないわね(頭コツンッ)とか噂されていたい。


当初の目的は完全に見失ってはいるものの、これはこれでハッピーセットだし、やっぱりイケメンってすげぇなぁって思ってたら、見慣れぬ平民が我々に近づいてきたんですよ。

彼は言うわけです。


「よかったら連絡先を交換してもらえませんか?」


ハッピィ!セット!!


もうね、マクドナルドの新しいCMこれでいいんじゃない?って思った。絶対業績回復するでしょこんなの。

同伴者効果すげぇ。パネェ。

心理学って使えるんだね。再現性があるものがわずかに39%とか言われてたりもするけれど、今ここでちゃんと役に立ったよ。誰が何と言おうと、わたしにとっては100パーセントのハッピーセットだよ。(CMここまで。)


もちろん、ここですぐに浮き足だったりはしない。なぜかって?イケメンだからさ。イケメンは理由になる。はしゃがない。欲しがらない。無様な姿は晒さない。夢見る少女じゃいられない。Because of IKEMEN!!

だから私は大人の落ち着きと余裕を見せつけるの。だってこの平民も、勇気を持って我々に話しかけにきてくれたんだから。声かけたいな。大丈夫かな。変な人だって思われたら嫌だな。でも、勇気ださなきゃ変われないよな。やらずに後悔よりもやって後悔!頑張れワタシ!えいえいおー!

分かる。分かるよその気持ち。
このとき、私たちは他の知り合いも入れて三人で話し込んでいたんだけど、そんな中1人で乗り込んでくるなんて偉い!ここは私が君のために、この場の空気を解きほぐして進ぜよう。


「もちろーん!ってか誰と?誰と交換したいの?笑」


軽やかに聞いてやったよね。LINEのふるふるする仕草とか交えながら、それはもうコミカルに。交換する準備できてるよー!つって。

突然声かけられてビックリしてた俺と一緒にいた2人も、「こいつぅ♡」みたいな顔して微笑んでるし、これなら平民も冗談めかしてイケメンの連絡先が聞けるよね。いいのよ私のことは。ピエロになるのは慣れっ子だから😉

つって平民に、気にしなくていいんだよってウィンクしたら、彼は感謝の言葉をこう口にしてきた。





「あ、いや、あんま話してないんでいいです。」




は?


え?なに?何言ってんのコイツ?いいって何?何がいいの?ってかなにさっさと他の2人とLINE交換しようとしてんの?平民の皮を被った愚民なの?飼い犬に手を噛まれるってこのこと?コイツが噂に聞く平成の明智光秀なの?あぁでも、三日天下だったのは俺の方か...アハハ...。

アハハじゃねぇし。あんま話してないからいらないってなに?あんま話してないからこそ連絡先が必要なんじゃないの?っていうかアンタ、俺の隣にいるこのイケメンとはそんなに話したの?話してないよね?だってコイツずっと俺と一緒にいたからね?今だって俺の方見てめっちゃ笑い堪えてるからね?ていうか堪えきれずに笑っちゃってるからね?笑いすぎて携帯とかまともに操作できてないからね?アンタが狙ってるそのイケメン、今俺に夢中だからね?


ていうか2人と交換するなら3人になっても一緒だろ!!つってQRコード映し出すイケメンの携帯になんとか俺のLINEのQRコード反射させらんねぇかとか試みたけど、健闘むなしく愚民の携帯が俺の連絡先を読み取ることはなかった。

イケメンズのLINEをゲットした愚民は満足そうに帰っていったのだが、その後愚民からイケメンズに連絡が来ることはなかったという。
一体あの愚民は何しに来たのだろうか。単なる笑いの使者だったのだろうか。




その日は新しい靴が欲しかったので、帰るついでにトボトボとABCマートに立ち寄ると、二足目半額セールをやっていた。ただし半額になるのは対象商品だけで、それらは私から見るとどれもイマイチだったため、結局本当に欲しいものを一足だけ買って家路についた。

売れない商品を売れる商品にくっつけて無理やり売ろうとしたところで、売れないもんは売れないのである。
あの靴、私みたいだなぁってことに気づいたのは、次の日新しい靴を履いてみて、やっぱり一足にして正解だったなぁと実感した瞬間だった。